「………暑い、」
「…んー……ほうられぇ…」
うだるような暑さに思わず呟くと、彼は皿に盛った氷を一つ掴み、口に含みながら言って、私の隣りに座った。
ガリガリと、氷を噛み砕く音がする。
冷たくて美味しそうだ。
「…私も食べようかな、」
氷を掴もうと、手を伸ばすが、イヴェールの手によって阻まれた。
ただでさえ暑くて苛々しているのに、この莫迦天秤は、
「……何するんだ、」
「僕が食べさせてあげるよ、」
ね?と首を傾げながら、もう片方の手で氷を掴み、私の口元へと持っていく。
「…は、」
意味が分からない。
この男の行動が意味不明なのはいつも通りだが、合わせないと、後々酷いことになる。
しょうがないから、口を開けてやると、指ごと中に入れてきた。
「………っ、…」
氷を掴んでいる指を離して外に出すのを待ったが、一向にその気配がない。
早く指を出せ、と睨むが、彼は涼しい顔でこっちを見ただけだった。
仕方なく、彼の指と氷との境目に舌を差し込み、氷を取ろうとするが、びくとも動かない。
指を入れられるのは好きではないが(むしろ嫌いだ)、氷は冷たくて心地好い。
二者択一だ、氷を、氷だけを舐めよう。
「……、…」
視界の隅に映る彼は、どうやら驚いているようだ。
(唐突な行動で人を驚かせるのは君だけではないんだ、)
そう思った途端、彼の口角が跳ね上がった気がした。
突然氷を離し、口腔を嬲り始めるイヴェール。
舌を追いかけたり、歯列をなぞったり。
「………っふ、ぅ…っ」
噛み切ってやろうかと真剣に考えたが、氷が邪魔だ。
圧迫感が強すぎて、呼吸がままならない。
口の端から唾液が垂れていくのが分かったが、動けない。
不思議と、本気で抵抗しようという気はしなかった。
暑さに頭がやられたのかもしれない、
耐えきれなくなって、舌を動かしたからか、飽きたからかは分からないが、イヴェールは私の口の中から指を抜いた。
(銀の糸を引いて離れる指、)
「おしまい、」
指を舐めて、彼はそう言った。
またいつものように倒されるのかと思ったが、本当に“おしまい”のようだ。
私はなるべく冷静を保って、再び本に目を落とした。
(……嗚呼、暑い、)
っぎゃぁぁぁあ!
…お…落ち着け私…!
つか何これ一種の羞恥ぷれいですかかっこわらい。
そして今日はあんまり暑くなかったという悲劇。
どうせなら夏に思いつけば良かったものを…!
Blog Pet様の“ペタペタ履歴”と“ペタペタした履歴”の違いが分からん。
誰か教えてー…
“手を伸ばすが”を“腕を伸ばすが”にしなかったのはわざとです。(笑
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